story- 今作が生まれるまで -

“暮らしの記憶、人生の景色。”

minä perhonen

デザイナーの皆川明により1995年に設立(設立当時はminäとして活動、2003年よりminä perhonenとなる)。オリジナルの図案によるテキスタイルを作るところから服作りを進める。国内の生地産地と連携し、素材開発や技術開発にも精力的に取り組む。

ブランド名は、デザイナーが北欧への旅を重ねる中でそのライフスタイルやカルチャーに共鳴し、フィンランドの語で名付けた。「minä」は「私」、「perhonen」は「ちょうちょ」を意味する言葉。蝶の美しい羽のような図案を軽やかに作っていきたいという願いを込めている。ブランドロゴは、「私(四角)の中のさまざまな個性(粒の集合)」を表す。

蝶の種類が数え切れないほどあるように、デザイナーの生み出すデザインもまた、増え続ける。

人々の暮らし、時間、記憶を、慈愛に満ちた眼差しと手で包み込む、特別な日常服。つくり手、つかい手、社会全体の豊かさの総量を増やしていくような、誠実なものづくり。

美しい思想と哲学をしなやかに実践し続ける minä perhonen さんと、今作を製作する機会に恵まれましたこと、大変うれしく思います。

2019年1月29日。あたり一面雪景色の山形の工房に、 皆川明さん、minä perhonen のみなさんがお越しくださいました。昼下がりの午後、寒空にうっすらと青の広がったこの日から、今作のものづくりはスタートしました。

“伝統を継承しながら、新たな試みのある現場だなという印象でした。鍛錬という言葉の合うお仕事を職人の方が真摯に取り組む姿は、感動的でもありました。”

山形緞通のものづくりに対する印象を、そう表現してくださった皆川さん。実は、今回のご訪問以前にも何度か工房をご視察いただく機会がありました。

前回にお越しいただいたのは、2013年の夏。それは私たちにとって、未来のものづくりに向けて、会社経営として大きな変化の舵を切ったはじまりの年でした。

それから約6年が経過した工房、ものづくりの場を再びご覧いただき、“お客さまが製品を長く使い続けられるように考えているのをあらためて感じました”と、励みになるご感想を頂戴しました。

そして、“この姿勢が、これから日本のものづくりの場と地球環境において大切なことだと思っています”と。その言葉に深く共鳴すると共に、背筋の伸びる思いがしました。

当日、ベテランから若手の職人を交えて、みなさんでアイデアを交換し合った時間はたくさんのインスピレーションと学びに溢れていました。

“生活者にとっての「豊かさ」は、ふだんの暮らしの中に宿っている。「もの」を通じた豊かさは、「もの」それ自体を所有する状況を指すのではなく、今の社会を生きる中でその対象を選ぶ視点や、大切に使い続けることで生まれる時間や記憶を介してこそ、感じられるのではないでしょうか。”

具体的なデザインについてお話される前に、皆川さんが私たちに静かに語ってくださった言葉です。今も深く心に残っています。

いくつかのラフイメージについて意見を交わしながら、まっさらなA4用紙にハンドドローイングで描かれるスケッチ。打ち合わせに参加した全員が、食い入るように見つめていました。そこには濃度の高い、凛とした時間の流れがありました。

実制作を進める工程においても、minä perhonen の哲学、ものづくりの真髄を垣間見た瞬間がありました。それは初回のミーティングを経て、サンプル制作やテストを重ねている中での出来事。検討していたデザインのアプローチを、一度リセットすることになったのです。

その理由は、今のアプローチでは、“繊細さを表現することに対しての労力と時間のバランスがあまり良くない”というものでした。どこかに負荷を偏らせたものづくりは、最終的に生産者にとっても、生活者にとっても良くない結果を招き、継続しない。そんなメッセージを受け取ったと感じました。

表現、労力、時間。そして、それらのバランス。つくり手とつかい手、社会(市場)のすこやかな循環を考えたものづくり。表層に発現するものではなく、「つづく」ことを見据えたデザインに対する真摯な姿勢に、あらためて深く感銘を受けました。

そうしたやり取りと時間を重ねて、ついに完成した『birds in the forest』。振り返ると、約2年の日々が過ぎ去っていました。

皆川さんから、はじめて図案をお受け取りしたときの感動。そこに描かれた空想の森には、ごろりと寝そべりたくなる大らかさがあって、木々で羽を休める小鳥たちからは、今にもさえずりが聞こえてきそうでした。

その優しい世界を、じっくりと時間と人の手を注ぎ、じゅうたんとして表現する機会に恵まれたこと。製品として、みなさまの暮らしにお届けできること。あらためて喜びを感じています。

“私の生活では、じゅうたんは空間においてとても大切なものです。それぞれの部屋に、部屋のつくりや家具、(全体の)印象に合わせて選んでいます。今後の生活で取り入れたいじゅうたんもストックしているほどです。”

そう仰る皆川さんに、今作をどんなふうに人々にお使いいただきたいでしょうかと伺うと、こんなメッセージをくださいました。

“日常に自然の彩りや生命力のようなものを感じていただけたら嬉しいです。そして、長くご愛用いただき、暮らしの記憶となり人生の景色になりましたら幸いです。”

生み出した「もの」が、人々の暮らしの記憶となり、人生の景色となる。私たちにとっても、これ以上ものづくり冥利に尽きることはありません。

2021年。これまでにない大きな変化を迎えている人々の日常に、今作が少しでもやすらぎやぬくもりをお届けできますように。そして、暮らしの喜びに寄与できますよう、心から願っています。